Physician associateとの対比から、医師の職業的特殊性について考える

日記
最近実習先で、Physician Associate (PA)の学生さんと一緒にまわる機会がありました。PA制度はアメリカから導入されたばかりで、イギリスでも新しく、あまりよく知りませんでした。この機に調べて考えた事をまとめてみたいと思います。

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PAとは?
試しに「フィジシャンズアソシエイトとは」でGoogle検索をかけてみたところ、分かりやすい定義はトップに上がってきませんでした。それ位日本での知名度は低い職種のようです。イギリスのNHSの運営する、Health Careersではこのように説明されています。
Physician associates support doctors in the diagnosis and management of patients.
訳:フィジシャンズ アソシエイツは、医師の診療行為をサポートする役割を担います。
 
これだけでは、一体何をするのかはっきりとしないな、という感じです。医師の直属のサポート役といったところでしょうか。さらに読み進めていくと、医師が通常行っている診療業務全般を、医師の監督のもと行うというように説明されています。
同じ実習先のPA生さんに聞いてみたところ、処方や診断の確定、治療方針の決定等は独自の判断では行えない、ということでした。
医師との違い
 
監督下で仕事をするという点以外では、ほとんど同様の仕事内容のように私には最初思えたのですが、もう少し詳しく見てみると、そこには決定的な差がいくつかある事が分かりました。1つ目は、大学でのコース内容。二つ目が、働き始めてからのキャリアパスです。
 
大学での課程
 
MBBS(イギリスでの医師の資格)を取得するためには、最低限5年間の医学科コースに通うことが条件になります。最初の2年は座学、後の3年は臨床実習メインです。一方のPAコースは、全部で2年間、座学と臨床をそれぞれ一年間ずつ行います。医学科に比べ非常に濃縮されており、それぞれの診療科をじっくりと理解するというよりは、全般的な診療に関わるエリアを広く触れていくことに、焦点が置かれているのではないでしょうか。
また、PA生さんの話すところ、実習先での滞在時間が特に決められていない医学生に対し、PA生は一日決まった時間を病棟で過ごす事が卒業の条件になっており、一日の終わりに必ず指導者からのサインが必要だそうです。単純に医学科よりも短時間で学位を納めなければいけないから、という理由もあると思います。
ただ、それだけなのでしょうか。イギリスの医学生は、一般的に17時以前のどこかの時点で帰宅するケースが多く見られます。「帰った後何をしているの?」とPA生さんにも聞かれましたが、大体周りを見ていると、question bankを解いたり、図書館で勉強したりなどが普通のように思えます。その時間にPA生が何をしているかというと、毎日の病棟での医師、看護師の補助をしたり、仕事の流れを見学したりという感じだそうです。
 
つまり、医学生には臨床のベースとなる基礎医学知識を蓄える時間が、臨床課程になっても暗黙の了解として与えられています。PAコースの場合は、基礎医学と臨床医学の学習バランスを自分で決める事は基本的にないのでは、と思います。より職業訓練的な内容が用意されているという風に考えられます。
 
この点では、学問としての医学と診療行為としての医学が、医学科とPAコースの大きな違いと言えるのではないでしょうか。
 
キャリアパス
 
PA生に話を聞くと、必ず違いとしてあげられるのが、キャリアパスです。医師の場合は、初期研修医(Foundation Year)、第一後期研修医(Core Trainee)、第二後期研修医(registrar)、指導医(Consultant)と、卒業後も長期に研修を続け、資格を取っていくことができます。PAには、このような段階的なキャリアのステップアップというものはなく、一度PAとして資格をとれば、基本的には研修は終了となります。
 
このような点で、同じ診療行為をする職業であっても、一つの分野での専門性を極めていくという点は、医師とPAとの大きなちがいであると考えます。
 
”Why do you want to be a doctor ? Why not a nurse ?”
 
ここまで、大きく二点、PAと医師との違いを考えてきました。すこし話題が変わりますが、英国での医学部入試の面接で良く聞かれる質問に、「何故、あなたは看護師ではなく医師の仕事を選んだのですか?両方患者さんを治療するしごとですが。」といった類いのものがあります。
この質問に当時の私は納得した答えが出せませんでした。医師を目指した動機として大きかったのが、患者さんを治療することで少しでもその人の生活に貢献できれば、というごく一般的なものだったからです。医療者として働く上で、それは一番大きな動機として当然ありますが、医師という職種の特殊性が見えていなかったということでしょう。
 
入試以降、この問題について深く考える機会はありませんでしたが、今回たまたまPAという、とても似通った医療職について考えてみたことで、医師という職業における基礎医学とのつながりの深さと、高度に細分化された専門トレーニングという2つの特色をはっきりと見いだす事ができました。6年前の自分の疑問に、少し答えを出すことができたかと思います。

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